ノルトライン・ヴェストファーレン州のルール工業地帯はヨーロッパ最大級の工業地帯であり、
19世紀半ばからドイツの工業活動の中心として石炭鉄鋼、重化学等の工業が集積してきた。
しかし、1950年以降、産業のグローバル化、重工長大産業の低迷、石炭産業の需要の後退により、失業率の増加、破壊された自然環境等が問題となっていた。
広大な対象地域、汚染された土壌、産業の衰退など、様々な問題を抱える場所で行われたのが「IBA・エムシャーパーク事業(エムシャーパーク国際建築展)」である。
1989~1999年の期限付きの事業であり、99年で一応は終了しているが、州、広域行政、各郡市町の関連事業として継続されているという。
産業の衰退に伴い衰退した広大な地域を、エムシャー川流域圏を骨格とした一纏まりの地域として指定し、
ドイツ伝統のIBA(国際建築展)と組み合わせることで斬新なアイディアを提示していった点が大きな特徴といえる。
・対象範囲
ドイツ・ルール地方、エムシャー川流域一帯。
対象地域は南北幅7km、東西は75kmにも及ぶ。
含まれる主な都市としては、
ドルトムント
エッセン
デュイスブルク
オーバーハウゼン
ボットロップ
ゲルゼンキルヒェン
ボッフム等
・コンセプト
7つのコンセプトがある。3つの系統に分けて並べてみた。
自然系
①エムシャー地域の自然景観の復旧 (緑道整備によるパークシステムの構築、ボタ山公園の整備)
②水系システムの改善(産業排水路から自然な河川へ)
産業遺産系
③運河の活用
④産業遺産の活用 (工場のリノベーションによる文化施設への転用)
職住系
⑤サイエンスパークの整備 (産業跡地の活用・先端産業の誘致による雇用の創出)
⑥住環境の改善
⑦社会活動・文化活動の促進
・事業を推進する組織
ノルトライン・ヴェストファーレン州が主体となったIBMエムシャーパーク社が組織された。
州からの役人2人が社長、副社長を担当しその他33人の作業員は10年間の期限付きで雇用。
民間企業とすることで民活の流れに沿うことができ、期限付きの雇用とすることで役人の雇用を増やさずに済む。
・手法
“コーディネートと広報”
IBMエムシャーパーク社はIBMプロジェクトとして取り上げられた事業にはあらゆる補助金を集め、いいものを作るコーディネートを行い、完成したものを徹底的に広報する。
具体的には、州内での公共事業等をエムシャーパーク対象範囲内に誘致。
国際コンペを行い、完成した建築を広報する。
事業に投資したり、プランニングや建設事業に対する権限は持たない。
対象敷地内の自治体は事業への自主的な参加を促される。事業に参加することで様々な補助金を得ることができる。
・資金
IBMエムシャーパーク社は州の機関であるため様々な公共事業をIBM事業として対象地に誘致できた。国際コンペで大々的に宣伝しつつ、街にユニークな固有解を残していく戦略。
・問題点
資料によると、市民参加が希薄なこと、住環境の整備に関してはその後ジェントリフィケーションによって従来の住民が住めなくなっていることが指摘されている。
・参考資料
勝野 武彦 「IBA エムシャーパークと地域計画」
西 英子, 中山 徹 「衰退した工業地域の再生事業に関する研究 IBAエムシャーパークを事例として」、「総合的な地域再生事業に関する研究 -ドイツ・IBAエムシャーパークを事例として-」
イベントによるまちづくり 国際建設展覧会 IBAエムシャーパーク
http://www.doitsunomachizukuri.de/Gakugei/mirror/Gakugei/mi09001.htm
・地形
黄色の範囲がIBA・エムシャーパークの対象範囲。範囲の南側には大小の起伏が見られる。
・水系
ライン川から多くの支流が見られる。
エムシャー川だけではなく、その他の支流も対象範囲に含まれていることが分かる。
・緑地
事業のコンセプトの一つに、産業の発展に伴い破壊されてきた自然環境の改善があげられている。
河川沿いの自然環境整備、産業跡地の緑地化が行われている 。
また、広大な対象地域を周回するサイクルパスが整備されている(下図)。
・道路網
対象地に含まれる主な都市をマッピングしたもの。デュイスブルク、エッセン、ドルトムントなど産業で栄えた都市が横に連なっていることが分かる。
・路線網
路線により各都市が密にネットワークされていることが分かる。先端産業の誘致には有利なインフラかもしれない。
ドイツ・エムシャーパークについてのメモ 産業遺産の活用事例編へ
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