2012年7月27日金曜日

ドイツ・エムシャーパークについてのメモ 産業遺産の活用事例


・デュイスブルク ランドシャフトパーク
IBA・エムシャーパーク事業の一環として、立坑採掘工場、コークス製造所、鉄精錬所の跡地に整備されたランドシャフトパーク(LandschaftsPark)が1991年から一般に開放されている。
公園の維持管理は州の開発省が行っている。

デュイスブルク中央駅からトラム903号線に乗り約20分でランドシャフトパークノルド駅に到着。
そこから7分ほど歩くと公園の入り口にたどり着く。

ここでは当時のオフィス、工場、倉庫をリノベーションして様々な用途に転換している。
イベントホール、オフィス、ガスタンクを利用したプールなどもあった。
いくつかの工場はそのままの状態で残されており、中に入ることもできる。

ぞっとする面白さ
複雑なパイプと鉄の構造物が絡まりあう製鉄所に入る楽しさはなかなかのものだった。
観光向けに多少手は加えられているものの、工場の無骨な表情はそのまま残されている。
 

階段で上部まで登ることができるが、階段は勾配がきついうえに踏み板の隙間から遠くの街並みが見え隠れしてかなりコワい。
途中からは手すりにしがみ付くように登って行った。



来客者も多く、ガイド付きのツアーのような人々もいた。

さて、デュイスブルグのランドシャフトパークは柵のない運河やむき出しの鉄骨、先に述べたぞっとする見学施設等、子供たちが日常的に遊ぶには適さない面が多い。
この点は普通の公園と違う点だと感じた。

しかし、情報を発信する場所としてのインパクトは大きい。リノベーションされた施設は独特の内部空間を有し、そこで行われるイベントは何であれ絵になるものになる。

建造物そのものが場所の記憶を伝えるには十分なインパクトを有しており、これはデュイスブルグ住民のシビックプライドの形成にも貢献するのではないだろうか。
  
 

・エッセン ツォルフェライン
エッセン中央駅に到着後トラム107番に乗り換え20分ほど行くとツォルフェライン(Zollverein)に到着する。

施設は幾つかに分節されており、博物館、美術館、アーティストインレジデンス、デザインオフィスなどが入っているとのこと。SANAAによってデザインされた建物も敷地内にある。
敷地内部は自由に入ることができ、散歩を楽しむことも可能だという。

ランドシャフトパークの無骨な表情とは異なり、レンガ、鉄、ガラスで構成されたツォルフェラインの造形は洗礼されている。
OMAによって博物館としてリノベーションされた工場内部はごつごつとした構造物と博物館のビビットなデザインが対比をなす。

 
産業遺産に関する展示の他に、IBAエムシャーパーク事業で実施されたプロジェクトの紹介が展示されていた。
 
 
SANAAが手掛けた建物。

 


コペンハーゲンの建築博物館でこの建物で用いられた“BubbleDeck”と呼ばれる特殊な工法の展示があった。
写真のように鉄骨の間にプラスチック製のボールを挿入することで、躯体の重量を35%削減することができたらしい。これにより細い柱で大空間を実現しているのだとか。
 


エッセンの事例ではデュイスブルクと比較して、学ぶ場所としての性格が強かった。
ルール工業地帯の歴史や労働者の生活を垣間見ることができる展示は現存する構造物と相まってインパクトのあるものとなっていたし、IBAのプロジェクトらしい斬新な提案だと感じた。


ドイツ・エムシャーパークについてのメモ 地域の構造編

・概要

ノルトライン・ヴェストファーレン州のルール工業地帯はヨーロッパ最大級の工業地帯であり、
19世紀半ばからドイツの工業活動の中心として石炭鉄鋼、重化学等の工業が集積してきた。

しかし、1950年以降、産業のグローバル化、重工長大産業の低迷、石炭産業の需要の後退により、失業率の増加破壊された自然環境等が問題となっていた。


広大な対象地域、汚染された土壌、産業の衰退など、様々な問題を抱える場所で行われたのが「IBA・エムシャーパーク事業(エムシャーパーク国際建築展)」である。

19891999年の期限付きの事業であり、99年で一応は終了しているが、州、広域行政、各郡市町の関連事業として継続されているという。

産業の衰退に伴い衰退した広大な地域を、エムシャー川流域圏を骨格とした一纏まりの地域として指定し、
ドイツ伝統のIBA(国際建築展)と組み合わせることで斬新なアイディアを提示していった点が大きな特徴といえる。


・対象範囲
ドイツ・ルール地方、エムシャー川流域一帯。
対象地域は南北幅7km、東西は75kmにも及ぶ。

含まれる主な都市としては、
ドルトムント
エッセン
デュイスブルク
オーバーハウゼン
ボットロップ
ゲルゼンキルヒェン
ボッフム

・コンセプト
7つのコンセプトがある。3つの系統に分けて並べてみた。
自然系
①エムシャー地域の自然景観の復旧 (緑道整備によるパークシステムの構築、ボタ山公園の整備)
②水系システムの改善(産業排水路から自然な河川へ)

産業遺産系
③運河の活用
④産業遺産の活用 (工場のリノベーションによる文化施設への転用)

職住系
サイエンスパークの整備 (産業跡地の活用・先端産業の誘致による雇用の創出)
⑥住環境の改善
⑦社会活動・文化活動の促進

・事業を推進する組織
ノルトライン・ヴェストファーレン州が主体となったIBMエムシャーパーク社が組織された。
州からの役人2人が社長、副社長を担当しその他33人の作業員は10年間の期限付きで雇用。

民間企業とすることで民活の流れに沿うことができ、期限付きの雇用とすることで役人の雇用を増やさずに済む。

・手法
“コーディネートと広報”
IBMエムシャーパーク社はIBMプロジェクトとして取り上げられた事業にはあらゆる補助金を集め、いいものを作るコーディネートを行い、完成したものを徹底的に広報する。

具体的には、州内での公共事業等をエムシャーパーク対象範囲内に誘致。
国際コンペを行い、完成した建築を広報する。
事業に投資したり、プランニングや建設事業に対する権限は持たない。

対象敷地内の自治体は事業への自主的な参加を促される。事業に参加することで様々な補助金を得ることができる。
  
・資金
IBMエムシャーパーク社は州の機関であるため様々な公共事業をIBM事業として対象地に誘致できた。国際コンペで大々的に宣伝しつつ、街にユニークな固有解を残していく戦略。

・問題点
資料によると、市民参加が希薄なこと、住環境の整備に関してはその後ジェントリフィケーションによって従来の住民が住めなくなっていることが指摘されている。


・参考資料
勝野 武彦 「IBA エムシャーパークと地域計画」
西 英子, 中山 徹 「衰退した工業地域の再生事業に関する研究 IBAエムシャーパークを事例として」、「総合的な地域再生事業に関する研究 -ドイツ・IBAエムシャーパークを事例として-」



イベントによるまちづくり 国際建設展覧会 IBAエムシャーパーク

http://www.doitsunomachizukuri.de/Gakugei/mirror/Gakugei/mi09001.htm


・地形
黄色の範囲がIBA・エムシャーパークの対象範囲。範囲の南側には大小の起伏が見られる。

 ・水系
ライン川から多くの支流が見られる。
エムシャー川だけではなく、その他の支流も対象範囲に含まれていることが分かる。

・緑地
事業のコンセプトの一つに、産業の発展に伴い破壊されてきた自然環境の改善があげられている。
河川沿いの自然環境整備、産業跡地の緑地化が行われている 。
また、広大な対象地域を周回するサイクルパスが整備されている(下図)。

・道路網
対象地に含まれる主な都市をマッピングしたもの。デュイスブルク、エッセン、ドルトムントなど産業で栄えた都市が横に連なっていることが分かる。

・路線網
路線により各都市が密にネットワークされていることが分かる。
先端産業の誘致には有利なインフラかもしれない。

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2012年7月25日水曜日

フィンランド・ヘルシンキについてのメモ 都市のデザイン編 目次


ヘルシンキで気付いた都市のデザインについて、6つの視点からまとめてみました。









フィンランド・ヘルシンキについてのメモ 都市のデザイン編 その1


1. グリッド状の街路網と歩行者天国
ヘルシンキの中心市街地はグリッド状の街路網で構成されている。
19世紀初頭から計画的に建設されたことに由来するが、
複雑な街路網をもつ中世都市の街並みとは異なる雰囲気が漂う。

グリッド状の街路網というと無機質で均質、悪く言うと殺風景なイメージを描いてしまいがちだが、19世紀に計画された新市街地計画にはグリッド状の街路網を持つものが多く、プロムナードや美しい公園、グリッドを斜めに貫く通り、通りと一体的に整備された建築群によって豊かな街並みが形成されていることも多い。

ヘルシンキでは斜面や隆起した岩盤、複雑な海岸線等、地形的な要素が加わることで、より多様な外部空間が形成されていた。
・街路網の概要
街路網の構成を見てみるとマンネルヘイミン通りを境にして異なる軸方向を持つグリッド街路網が隣接していることが分かる。

東側ではほぼ東西南北に軸線が向く。アレクサンテリン通りと線形のエスプラナーデ公園沿いには公共交通、各種ショップ、金融機関等が集まり、主要な横軸として機能していた。明確な軸線によって市街地から水辺へのビスタを確保している点は興味深い。

また、ウニオン通り沿いにはヘルシンキ大学、ヘルシンキ大聖堂、Senate広場等、重要な施設が連なる。
エラインタルハン湾によって市街地が南北に分断されているが、ウニオン通りは両者を繋ぐリンクでもあり、重要な縦軸である。

西側のグリッドは東側に対して35度程度傾いた軸線を持つ。Salomon通り沿いには幾つかの広場が連なり東側のそれとは異なる歩行空間を形成している。
特に、ゆるい傾斜を活かした通りのデザインは興味深い。

公共交通としてトラムの路線が密に整備されおり、トランジットモールも見られる。
スイッチバック式の鉄道駅舎は市街地に杭を刺すような形になっており、市街地を強く分断している。
しかし、両脇をトゥーロン湾とエラインタルハン湾、植物園や公園によりカバーされており、路線沿い特有の殺伐とした印象は薄い。

・歩行者天国
前述したとおり、ヘルシンキのグリッド状の街路網の一部は歩行者天国、トランジットモールとして整備されている。各通りは建築、舗装、植栽、傾斜によって多様な景観が形成されている。
エスプラナーデ公園やSenate広場、水辺の広場等が歩行者天国に接続することで人の溜りができやすい空間が付加されている。